「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査」報告書
本稿では令和2年度依存症に関する調査研究事業「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査」報告書(以下、実態調査報告書(*1))と、 厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業ギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究令和元年ー令和3年総合研究報告書(以下、家族支援報告書(*2))を参照して「ギャンブル依存症」を検証する。
実態調査報告書では、無作為抽出された一般住民17,955人(18歳〜74歳)に回答票を郵送した。回答は自記式アンケートを返送、もしくはインターネットからの回答を選択できる。有効回答は8,223人(有効回答率45.8%)であった。
ギャンブルの種類と定義
ギャンブルとは賭博とは偶然の勝敗により財物・財産上の利益の得喪を争う事であり、実態調査報告書では以下の項目が含まれる。
ギャンブルの種類
- 競馬、競艇、競輪、オートレースの公営競技
- パチンコ、パチスロの射幸性遊技
- カジノ、ブックメーカー等の海外のギャンブル
- カジノ等の海外ギャンブル(日本国内からのオンラインカジノや)
- オンラインカジノ、ブックメーカー等の日本国内からの利用は違法なギャンブル
- 裏カジノ、賭け麻雀等の国内の違法ギャンブル
ギャンブル等依存症対策基本法(*3)第二条に定める「ギャンブル等依存症」とは、いわゆるギャンブルにのめり込む事により日常生活や社会生活に支障が生じている状態であり、実態調査報告書では医学的疾病概念であるICD-10(WHO)の病敵賭博(Pathological gambling)とDSM-5(米国精神医学会)のギャンブリング障害(Gambling Disorder)は同義であると記述されている。
ギャンブル等依存症対策基本法
第二条
この法律において「ギャンブル等依存症」とは、ギャンブル等(法律の定めるところにより行われる公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為をいう。第七条において同じ。)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態をいう。(*3)
また、ギャンブラーズ・アノニマス(以下、自助グループ(GA))での医療的疾病概念である強迫的ギャンブルにおいても、ICD-10(WHO)の病敵賭博(Pathological gambling)やDSM-5(米国精神医学会)のギャンブリング障害(Gambling Disorder)と同義であるとする説が一般的であり、医療機関や相談機関が自助グループ(GA)への参加を促している。
ギャンブル依存症のスクリーニングテスト
実態調査報告書で使用されているギャンブル依存症のスクリーニングテストであるSOGS(South Oaks Gambling Screen)は、米国のサウスオークス財団が開発した自記式のスクリーニングテストであり、カットオフ値5点以上でギャンブル依存症が疑われる者とされている。
実態調査報告書でのSOGS5点以上の者で過去1年間にギャンブル依存症が疑われる者は165(2.1%)、回答者数の偏りを人口で補正した年齢調整後では175.6(2.2%)、約191万人(18歳〜74歳)だった。
しかし、実態調査報告書の「まとめと考察」において、諸外国の研究では、SOGSを使用した場合には DSM-5を使用した場合よりも偽陽性が多くなるとした研究、SOGS5点以上の者の53%はDSM-5でのギャンブル依存症には該当しないとした研究、SOGSのカットオフ値を5点から8点にする事で特異度が改善できるとする研究もあり、SOGS5点以上は医学的診断としてのギャンブル依存症と同等では無いと結論づけている。
他方で、公益財団法人日本遊技機工業組合社会安全研究財団(社安研)の2020年のパチンコ・パチスロ遊技障害研究成果中間報告書(以下、社安研調査2020)においても、日本で主たるパチンコやパチスロに適したカットオフ値はDSM-5で4点、SOGSが7点〜8点とする研究調査結果を公表している。(*4)
わたしは12ステップの背景にある依存概念は相対化しないといけないと思っています。それが依存の姿だという見方は少なくとも行動嗜癖では当てはまるとは限らない。とくに調査統計レベルの疑いの閾値では全く当てはまらない。12ステップ自体は宗教療法としてなら有だし、きらいじゃないですが。
— はげひげ(菊仙人) (@96hage) August 10, 2022
医療機関等が参加を促す自助グループ(GA)の診断基準(20の質問)においても、上記の社安研の遊技障害研究に参加していた、公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授・篠原菊紀氏(以下、篠原教授)は、「調査統計レベルの疑いの閾値では全く当てはまらず、相対化がなされていない」と指摘している。
過剰診断になる問題点が指摘されておりながらも、カットオフ値の修正をせずに実数が疑わしい実態調査報告書を発表したのは、何らかの目的があって誇大化したかったのではないかとの疑念が生じる。
過去1年間では宝くじが最多
実態調査報告書では過去1年間で経験したギャンブルで最も多かった(複数選択可)のが、宝くじ等1,887(36.5%)、次にパチンコ669(16.4%)、パチスロ433(23.5%)、競馬406(17.0%)、証券取引等276(41.8%)の順であり、SOGS5点以上の者においては、パチンコ116(70.3%)、次にパチスロ87(52.7%)、宝くじ等68(41.2%)、サッカーくじ17(10.3%)、競馬34(20.6%)、証券取引等16(9.7%)の順であった。
過去1年間で経験したギャンブルで最もお金を使用した(単一選択)のが、宝くじ等1,315(51.4%)、次にパチンコ404(15.8%)、パチスロ247(9.7%)、競馬229(9.0%)、証券取引等191(7.5%)の順であり、SOGS5点以上の者においてはパチンコ60(38.7%)、パチスロ50(32.3%)、競馬17(11.0%)、宝くじ等11(7.1%)、証券取引等5(3.2%)であった。
公的相談機関
- 精神保健福祉センター
- 保健所
自助グループ(GA)有志
- GAの会場
- 精神保健福祉センター開催のGA
公的機関相談者の問題になっているギャンブルで最も多い(複数選択可)のがパチンコ52(72.2%)であり、パチスロ36(50.0%)、競馬20(27.8%)と続き、証券取引等5(6.9%)、宝くじ等6(8.3%)であった。自助グループ(GA)有志では、パチンコ250(67.7%)、パチスロ250(67.7%)、競馬79(21.1%)と続き、証券取引等24(6.4%)、宝くじ等22(5.9%)であった。
東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)の当事者(SOGS平均13.5点)の夢中になっていたギャンブルの調査(*2)では、パチンコ48(80.0%)、パチスロ40(60.7%)、競馬33(55.0%)、宝くじ等17(28.3%)であった。また、全国の72の精神保健福祉センターでの202名を対象としたギャンブルの種類の調査(*2)では、パチンコ131(64.9%)、パチスロ117(57.9%)、競馬69(34.2%)、宝くじ等6(3.0%)であった。
着目すべきは、過去一年で経験したギャンブルで多かったパチンコやパチスロが、SOGS5点以上の者での過去一年で最もお金を使用したギャンブルにおいても上位となっており、また、公的機関相談者や自助グループ(GA)有志での問題となっているギャンブルや、慈恵医大や精神保健福祉センター調査でもパチンコやパチスロは上位を占めており、ギャンブル依存症リスクが高くなる事を示唆している。
対して、過去一年で最も多く経験者がおり1,887(36.5%)、最も多くのお金を使用した宝くじ等1,315(51.4%)が、SOGS5点以上の者での最もお金を使用したギャンブルでは11(7.1%)と少なく、当事者の問題となっているギャンブルにおいても、公的機関相談者6(8.3%)、自助グループ(GA)有志22(5.9%)であり、また、慈恵医大調査でも17(28.3%)、精神保健福祉センター調査でも6(3.0%)であった。
これは、宝くじ等のギャンブル依存症リスクが低くなる事を示唆しており、この着目した二つの事実から、払い戻し率の高低やそのゲームの構造によりリスクが変動すると考察した。現在の精神医療が様々なギャンブル自体を全て単一的に捉えた治療が誤りであり、個々のギャンブルに合わせた対応が必要である事を示唆している。
1ヶ月あたりのギャンブルに使用する金額と借金
実態調査報告書における、1ヶ月あたりのギャンブルに使用する勝ち金を含めない金額は中央値で10,000円であり、SOGS5点以上の者においての中央値は50,000円である。
公的相談機関利用者の1ヶ月あたりのギャンブルに使用する勝ち金を含めない金額は、平均値で298,854円、中央値は75,000円。自助グループ(GA)有志では、平均値は480,456円、中央値は100,000円であった。
また、ギャンブルに関連した借金額の平均値は、公的相談機関利用者では3,939,773円、中央値は3,000,000円。自助グループ(GA)有志での平均値は7,503,237円。中央値は3,000,000円。慈恵医大調査では、平均値が2,940,000円、中央値が1,300,000円。精神保健福祉センター調査では、平均値が2,895,000円、中央値が1,300,000円。
また、入所型回復施設グレイスロードの利用者では、借金が5,000,000円以上の人が半数以上、10,000,000円以上が4分の1以上であった。
しかし、勝ち金を含めない事や高額な資金を運用する証券取引等を項目に追加していれば、平均値や中央値が上昇する可能性を否定できなず、日本で主たるパチンコでは、その金額まで負けるには膨大な時間を要する。
また、設問にある「これまでにギャンブルに関連した借金はありますか」では、現在進行形か過去形かの判別もできず、漠然としすぎであり、自記式調査ではその数値の信憑性や、全てがギャンブル関連の借金であるのかには疑念を持たざるを得ない。
ギャンブル問題とは
実態調査報告書でのギャンブル問題とはギャンブルを起因とした以下の問題である。
- 1 ギャンブルから抜け出せない(ギャンブルをやめられない,やめさせられない)ことに関する問題
- 2 ギャンブルにより生じた経済上(借金,働かないことによる生活困窮)の問題
- 3 ギャンブルにより生じた家庭の問題(離婚,虐待,育児放棄)
- 4 ギャンブルにより生じた人間関係上の問題
- 5 ギャンブルにより生じた精神保健上の問題
- 6 ギャンブルにより生じた社会的,学業上の問題(*1)
実態調査報告書での全回答者中、家族や重要な他者に過去や現在にギャンブルの問題があった者は14.4%、内訳は父親6.1%、配偶者3.4%、兄弟姉妹2.2%、恋人・交際相手0.4%、大事な人1.6%、母親0.8%、祖父母0.6%、子供0.7%であった。ギャンブルの問題があった人から受けた影響は、あてはまるものはない45.5%、浪費、借金による経済的困難が生じた26.5%、ギャンブルをやめられない人に怒りを感じた20.0%、借金の肩代わりをした18.0%、家庭不和、別居、離婚を経験した11.8%、が上位である。
生涯にギャンブルを経験した事がある者のうち、ギャンブル問題で相談した事がある者は305(5.3%)、無い者が5,434(94.7%)である。相談した事がある者が305(5.3%)、SOGS5点以上の相談した事がある者が165(2.2%)であれば、当事者のほとんどが相談に訪れている可能性が高く、当事者が簡単には相談に訪れないという可能性は低い。
相談した事がある者が相談に訪れた機関は、公的相談機関利用者では、病院やクリニックの受診56(49.6%)、自助グループ(GA)47(41.6%)。自助グループ(GA)有志では、自助グループ(GA)122(75.3%)、病院やクリニックの受診94(58.0%)であるが、初めて受診した機関が、他の診断基準と相対化なされていない点を指摘されている自助グループ(GA)であると、過剰診断となる可能性を否定できない。
ギャンブル依存症の併存障害
抑うつ、不安のスクリーニングテストであるK6
実態調査報告書では、抑うつ、不安のスクリーニングテストであるK6を使用して、併存障害調査を行なった。
評価方法
- 0~4点・問題無し
- 5~9点・何らかのうつ、不安の問題がある可能性がある
- 10~12点・うつ、不安障害が疑われる
- 13点以上・重度のうつ、不安障害が疑われる
SOGS得点区分別での比較において、SOGS5点未満の者では、0~4点5,327(71.2%)、5~9点1,360(18.2%)、10~12点402(5.4%)、13点以上399(5.3%)、SOGS5点以上のギャンブル依存症が疑われる者では、0~4点76(48.4%)、5~9点40(25.5%)、10~12点15(9.6%)、13点以上26(16.6%)であり、ギャンブル依存症が疑われる者では抑うつ、不安が強い事が判明した。
公的相談機関でのギャンブル依存群では、0~4点21(33.9%)、5~9点12(19.4%)、10~12点13(21.0%)、13点以上16(25.8%)。自助グループ(GA)有志では、0~4点69(43.7%)、5~9点44(27.8%)、10~12点20(12.7%)、13点以上25(15.8%)であった。
不安障害等の併存障害
精神保健福祉センター調査では60名中35名が併存障害があり、うつ病16(26.7%)、行動嗜癖10(16.7%)、不安障害7(11.7%)、知的障害3(5.0%)、アルコール使用障害3(5.0%)であった。慈恵医大調査では当事者の58.3%に併存障害があり、うつ病(26.7%)、行動嗜癖(16.7%)、不安障害(11.7%)、知的障害(5.0%)、アルコール使用障害(5.0%)、双極性障害 (3.3%)、てんかん(1.7%)、解離性障害(1.7%)であった。
精神保健福祉センター調査ではADHDの疑いが6.5%。慈恵医大調査では具体的な数値は公表していないが、ASRS(成人期のADHD自己記入式症状チェックリスト)での平均点が1.57点(2点以上が6項目中4項目以上でADHDの疑い)。AQ(自閉スペクトラム障害指数)の平均得点は20.2点(33点がカットオフ)であった。
前述の篠原教授によると、2019年のパチンコ依存問題相談機関リカバリーサポートネットワークでの調査(相談が延べ5,222件)では、狭義の精神障害369(61%)(**1)、精神障害その他206(34%)(**2)、アルコール問題35(6%)だった。(*5)
- (**1) 統合失調症、うつ病、発達障害、双極性障害等
- (**2)狭義の精神障害以外の精神的な問題(うつ、パーソナリティー障害、不安障害、適応障害、自己診断も含む)、精神科医療機関に通院中だが病名を告知されていない、精神科医療機関に通院中だが病名を明らかにしたくない
海外調査でも併存障害について報告されており、Dowling NA et al.(2015)では併存障害が発達障害などを含めて74.8%以上、National Center for responsible gambling (2017)では、三つ以上の精神疾患併存が64%、二つ以上併存が22%、一つが10%、併存障害無しは3.7%という調査結果がある。 また、カナダ・マニトバ大学Jennifer TheuleらのADHDとギャンブル依存症の重症度の調査(2016)では、ADHDとギャンブル依存症の重症度に有意な関連性があり、年齢上昇で関連が強まる事が指摘されている。(*5)
ギャンブル依存症と希死念慮
実態調査報告書での希死念慮の調査では、希死念慮があると回答した者は、5点未満の者1,600(22.2%)、SOGS5点以上の者63(39.9%)であり、無いと回答した者は、5点未満の者5,606(77.8%)、SOGS5点以上の者95(60.1%)であった。
公的機関相談者での調査では、ギャンブル依存群で希死念慮があると回答した者は41(70.7%)、無い17(29.3%)であった。
また、自助グループ(GA)有志では、希死念慮があると回答した者は116(73.9%)、無い41(26.1%)。慈恵医大での調査では、希死念慮があると回答した者は78.7%であった。当事者においては希死念慮がある者が多い事が判明した。
ギャンブル依存症と喫煙
実態調査報告書での喫煙の調査では、SOGS5点未満の者では、吸った事は無い4,134(53.5%)、以前は吸っていたが現在はやめた2,291(29.7%)、今も吸っている1,299(16.8%)。SOGS5点以上の者では、吸った事は無い35(21.5%)、以前は吸っていたが現在はやめた48(29.4%)、今も吸っている80(49.1%)であった。また、慈恵医大での喫煙経験の調査では、全体では生涯で喫煙経験がある者は65.0%、併存障害がある者は77.1%、併存障害が無い者は48.0%であった。
ニコチンがADHDの諸症状を抑制する事が判明しており、喫煙は自己治療である(自己治療仮説)とする諸外国の研究もある。(*6)
ADHDやASDなどの発達障害の二次障害には、希死念慮、うつ症、適応障害、PTSD、感情障害、不安障害、薬物嗜癖等がある。あくまでも推論になるが、実態調査報告書等での不安障害等の併存障害や希死念慮の割合、自己治療的な喫煙率の高さは、発達障害の診断が確定した者の実数が少なくても、発達障害の傾向のあるグレーゾーンの者が多く存在する可能性が高い。(*7)
家族支援報告書では併存障害の実態は国内では把握されていないとしているが、リカバリーサポートネットワークや公益財団法人日本遊技機工業組合社会安全研究財団の2021年初頭のパチンコ・パチスロ遊技障害研究成果最終報告書において、ADHDや神経症等の研究調査結果が報告されている。(*8)
ギャンブル依存症と小児期逆境体験
小児期逆境体験(18歳未満で体験した心的外傷を引き起こす可能性のある出来事)(*9)は以下の10項目である。
小児期逆境体験
- 心理的虐待を受けた
- 家庭内暴力(DV)を目撃した
- 精神疾患がある人との同居
- アルコール依存や薬物乱用のある人との同居
- 身体的虐待を受けた
- ネグレスト(養育の放棄)を受けた
- 両親の離婚
- 刑務所にはいったことがある人との同居
- 学校でのいじめ被害
- あてはまるものはない
実態調査報告書において、1項目以上該当した者は全体の25.0%であり、SOGSの得点区分別に18 歳までに小児期逆境体験を1項目以上該当したものは、5点未満で1,834(24.8%)、5点以上で56(34.8%)であり、ギャンブル依存症が疑われる者では割合が高かった。
公的機関相談者におていのギャンブル依存群では1つ以上該当は24(43.6%)。該当者が最多の項目はで学校でのいじめ被害11(20.0%)と両親の離婚11(20.0%)であった。自助グループ(GA)有志においての1つ以上該当は86(58.1%)、該当者が最多の項目は学校でのいじめ被害51(34.5%)、次に心理的虐待を受けた33(22.3%)であった。
慈恵医大の過去に経験した辛い出来事の調査では、経済的困窮(30.0%)、いじめ (23.3%)、成績不良(13.3%)、厳しいしつけ (13.3%)、過剰に期待をされた体験(13.3%)であった。併存症を有する郡では過去のいじめ体験(34.3%)が多かった。
小児期逆境体験の調査では共有環境(家庭環境)による要因が大きい事を示唆している様に感じるが、篠原教授のブログを参照させて頂くとWendy S. Slutskeら(2010)のギャンブル依存症の遺伝的要因や環境的要因に関しての双生児研究では、遺伝的要因が49.2%、共有環境(家庭環境)が0%、非共有環境(家庭以外の環境)50.7%である。(*10)
また、Christal N. Davisら(2020)の同様の研究では、遺伝的要因が約60%、非共有環境が約40%、共有環境がほぼ0%だった。(*11)
諸外国の調査を鑑みると、国内調査で上位である「いじめ体験(非共有環境)」や、遺伝的要因がギャンブル依存症の要因となりえるが、小児期逆境体験の調査により「家庭環境(共有環境)」が要因であると誘導するような報告には疑念を持たざるを得ない。非共有環境の調整や個々人が依存症以前に有するパーソナリティー障害等の精神疾患リスクの解消が課題ではないだろうか。
ギャンブル依存症と家族
養育困難
当事者
公的機関相談者の当事者への養育困難に関しての調査では、ギャンブル依存群での養育困難である18(46.2%)、無い21(53.8%)。自助グループ(GA)有志では、養育困難である55(66.3%)、無い28(33.7%)だった。
家族
公的機関相談者の当事者の家族への養育困難に関しての調査では、ギャンブル依存群での養育困難である40(78.2%)、無い12(21.8%)。自助グループ(GA)有志の家族では、養育困難である302(89.6%)、無い35(10.4%)だった。
子供への虐待
当事者
公的機関相談者の当事者への子供への虐待に関しての調査では、ギャンブル依存群での虐待経験あり10(25.6%)、無い29(74.4%)。自助グループ(GA)有志では、虐待経験あり31(42.5%)、無い7(58.3%)だった。
家族
公的機関相談者の当事者の家族への子供への虐待に関しての調査では、ギャンブル依存群での虐待経験あり20(37.0%)、無い34(63.0%)。自助グループ(GA)有志の家族では、虐待経験あり188(56.0%)、無い148(44.0%)だった。
小児期逆境体験
当事者
公的機関相談者の当事者への小児期逆境体験に関しての調査では、ギャンブル依存群での小児期逆境体験が1つ以上該当は24(43.6%)、無い31(56.4%)。自助グループ(GA)有志では、小児期逆境体験 が1つ以上該当は86(58.1%)、無いは62(41.9%)だった。
家族
公的機関相談者の当事者の家族への小児期逆境体験に関しての調査では、ギャンブル依存群での小児期逆境体験が1つ以上該当は19(33.9%)、無い37(66.1%)。自助グループ(GA)有志の家族では、小児期逆境体験 が1つ以上該当は176(48.8%)、無いは185(51.2%)だった。
希死念慮
当事者
公的機関相談者の当事者への希死念慮の有無に関しての調査では、ギャンブル依存群では、希死念慮がある41(70.7%)、無い17(29.3%)。自助グループ(GA)有志では、希死念慮がある103(73.9%)、無い41(26.1%)だった。
家族
公的機関相談者の当事者の家族への希死念慮の有無に関しての調査では、ギャンブル依存群では、希死念慮がある23(40.4%)、無い34(59.6%)。自助グループ(GA)有志の家族では、希死念慮がある165(46.7%)、無い188(53.3%)だった。
抑うつ・不安
当事者
公的機関相談者の当事者への抑うつ・不安に関しての調査では、ギャンブル依存群での過去30日間に抑うつ・不安の頻度は、0-4点21(33.9%)、5-9点12(19.4%)、10-12点13(21.0%)、13点以上16(25.8%)。自助グループ(GA)有志では、0-4点69(43.7%)、5-9点44(27.8%)、10-12点20(12.7%)、13点以上25(15.8%)だった。
家族
公的機関相談者の当事者の家族への抑うつ・不安に関しての調査では、ギャンブル依存群での過去30日間に抑うつ・不安の頻度は、0-4点19(33.3%)、5-9点13(22.8%)、10-12点11(19.3%)、13点以上14(24.6%)。自助グループ(GA)有志の家族では、0-4点165(46.7%)、5-9点100(28.3%)、10-12点38(10.8%)、13点以上50(14.2%)だった。
触法行為
当事者
公的機関相談者の当事者への触法行為に関しての調査においてギャンブル依存群では、家族の金品を盗んだ(69.8%)、家族や知人のカードを勝手に使用した(31.7%)、客引きや薬物売買等の違法な仕事を行った(1.6%)、家族以外の他人や店から金品を盗んだ(20.6%)、違法薬物を使用した0(0.0%)、暴力を奮ったり物を壊した(14.3%)、業務上横領(22.2%)、飲酒運転(25.4%)。
自助グループ(GA)有志においては、家族の金品を盗んだ109(70.3%)、家族や知人のカードを勝手に使用した51(32.9%)、客引きや薬物売買等の違法な仕事を行った6(3.9%)、家族以外の他人や店から金品を盗んだ48(31.0%)、違法薬物を使用した6(3.9%)、暴力を奮ったり物を壊した30(19.4%)、業務上横領45(29.0%)、飲酒運転43(27.7%)だった。
家族
公的機関相談者の当事者の家族への当事者の触法行為に関しての調査においてギャンブル依存群では、家族の金品を盗んだ39(69.6%)、家族や知人のカードを勝手に使用した18(32.1%)、客引きや薬物売買等の違法な仕事を行った1(1.8%)、家族以外の他人や店から金品を盗んだ5(8.9%)、違法薬物を使用した0(0.0%)、暴力を奮ったり物を壊した11(19.6%)、業務上横領7(12.5%)、飲酒運転1(1.8%)だった。
自助グループ(GA)有志の家族においては、家族の金品を盗んだ257(74.3%)、家族や知人のカードを勝手に使用した112(32.4%)、客引きや薬物売買等の違法な仕事を行った5(1.4%)、家族以外の他人や店から金品を盗んだ74(21.4%)、違法薬物を使用した10(2.9%)、暴力を奮ったり物を壊した75(21.7%)、業務上横領82(23.7%)、飲酒運転25(7.2%)だった。
養育困難がある事や子供への虐待がある事では、当事者より当事者の家族の方がその認識が高く、反対に、希死念慮では当事者の方が認識が高い。触法行為では家庭内での窃盗行為が多い。前述の諸外国の要因調査の結果を鑑みると、ギャンブルを行ったから問題が発生したかのように誘導する報告書には疑念を持たざるを得ない。
ギャンブル依存症は誰でもなり得る病気であるのか
「まとめと考察」には「誰でもなり得る病気である」とされているが、果たして本当なのだろうか。
実態調査報告書 第5章「まとめと考察」
ギャンブル等依存症は、他の精神疾患(うつ病)や身体疾患と同様に誰でもなり得る病気であるという正しい知識の更なる普及啓発が必要である。(*1)
実態調査報告書における調査票の設問「過去1年間で経験したギャンブル」においての選択項目、「証券の信用取引〜」の注意書きには「仕事などの業務で行うものは除く」とある。つまり、仕事などの業務レベルと同等の金融工学、統計学、確率論の知識を持つ者が「証券の信用取引〜」を行った場合には、ギャンブル依存症に陥らない事実を国立である久里浜医療センターが認めたという証拠になる。
まさかとは思うが、業務で金融工学を用いて利益を追求している者がプライベートでは情緒的な思考で莫大な損失が出るまで投資を行うと断言し、誰でもなり得る病気であると主張するのであれば、もはや詭弁以外の何者でも無い。
他にも確率論の知識を持つ者がギャンブル依存症に陥らない証拠が存在する。
精神保健福祉センターのギャンブルを行う目的を問う調査(*2)では、男性の1位は「金稼ぎ」、2位は「ストレス解消」、女性の1位は「ストレス解消」、2位が「金稼ぎ」であった。また、そのギャンブルの種類はパチンコとパチスロが最多であった。
その当事者の非合理的な考えを測定する尺度であるGRCSは下記の5つの因子で測定されるが、GRCSでの非合理的な考えの強さとDSM-5での重症度は相関していた。受診時の非合理的な考えの強さが予後を予測する因子となる可能性があると指摘している。
ギャンブルの目的の上位に「金稼ぎ」がありながら、GRCSの因子である「幻想的必勝法」「誤った統計的予測」「偏った解釈」におけるスコアの高さは、ギャンブルに関しての確率論の知識に非合理的な考えがある事により「金稼ぎ」に失敗している事実の証左となる。つまり、ギャンブルにおける確率論の知識を有し、非合理的な考えが無ければギャンブル依存症にはならないという証左になる。
当事者のGRCSの確率論の設問でのスコアの高さの要因としては以下の調査から考察できる。
慈恵医大調査での受診後のギャンブル中断率の経時的変化は、併存疾患なしの者で、初診時100.0%、3ヶ月100.0%、12 ヶ月60.0%。併存疾患ありの者で、初診時68.8%、3ヶ月62.5%、12 ヶ月35.7%であった。
同じく、慈恵医大調査でのSOGSスコア経時的変化では、併存疾患なしの者で、初診時13.6点、3ヶ月5.1点、12 ヶ月6.0点。併存疾患ありの者で、初診時13.5点、3ヶ月5.0点、12 ヶ月6.6点であった。また、通院継続率の調査では、併存疾患なしの者で、3ヶ月90.0%、12 ヶ月40.0%。併存疾患ありの者で、3ヶ月75.0%、12 ヶ月68.8%であった。
併存疾患なしの当事者の場合には通院継続率は12ヶ月後に40%、中断率が60%であるが、併存疾患がある当事者では12ヶ月後に68.8%、中断率が35.7%である。GRCSスコアが重症度と相関しており、予後を予測する因子であるならば、GRCSスコアが高い場合には併存疾患がある当事者である可能性が高い。
然すれば、併存障害である精神疾患等を治療する必要性があれば医療側で治療をし、当事者の非合理的な考えは、行為を直接的に制御する要因である確率論を用い、定量化して論理的に管理する認知行動療法により解消するのが最適である。
ギャンブル依存症のレトリック
本稿で取り上げた実態調査報告書等では、諸外国の研究や国内の他の研究から過剰診断になる問題点を指摘されているSOGSのカットオフ値を上方修正しない事や、使用金額等に高額な資金を運用する証券取引等の追加や、全てがギャンブル関連の借金であるかのような漠然とした借金調査は、ギャンブル依存症を誇大化したい意図が汲み取れる。
併存障害においても一次障害である発達障害等にはあまり言及せず、二次障害的な症状にだけ着目する事や、諸外国の研究では影響がほぼ0%である共有環境(家庭環境)も影響しているように推測させるような調査や、K6や触法行為等に関する調査等は、ギャンブルを行ったから問題が発生したかのように錯覚させるものである。
そして、当事者のギャンブルの目的は「金稼ぎ」が上位だが、当事者の確率論の知識に非合理的な考えがありGRCSスコアは高い。逆説的に言えば、この事実はギャンブルにおける確率論の知識に非合理的な考えが無ければギャンブル依存症にはならない証左となる。
今回取り上げた報告書等ではレトリックを駆使し、あたかもギャンブルを行ったから依存症になり、様々な関連問題が発生したと横断的な調査により誘導推論に導かれており、ギャンブル依存症は誰でもなり得る病気であると結論づけているが、ギャンブルにおける確率論の知識に非合理性が無ければギャンブル依存症には誰でもなり得ない事が、今まさに本稿で証明されてしまった。紛れもなく、ギャンブル依存症は市場拡大のための病気喧伝、否、欺瞞の病である。
*2022年11月6日変更(表を画像に変更いたしました。)
*2022年11月24日加筆(段落「ギャンブル依存症のスクリーニングテスト」に加筆致しました。)
(*1)参照元・令和2年度依存症に関する調査研究事業「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査」報告書 | 研究代表者:独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
(*2)参照元・厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業ギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究令和元年ー令和3年総合研究報告書 | 研究代表者:松下幸生氏(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
(*3)引用元・ギャンブル等依存症対策基本法
(*4)参照元・公益財団法人日本遊技機工業組合社会安全研究財団パチンコ・パチスロ遊技障害研究成果中間報告書(2020)
(*5)参照元・ギャンブル依存には併存障害があることが常識 - 公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授・篠原菊紀氏
(*6)参照元・Jean-G Gehricke 1 , Carol K Whalen, Larry D Jamner, Tim L Wigal, Kenneth Steinhoff | The reinforcing effects of nicotine and stimulant medication in the everyday lives of adult smokers with ADHD: A preliminary examination | PMID:16497598 DOI:10.1080/14622200500431619
(*6)参照元・Bauke van der Velde Department of Psychiatry, Academic Medical Center, University of Amsterdam, Amsterdam, The Netherlands , Mieke Schulte & Wim van den Brink | Causal Factors of Increased Smoking in ADHD: A Systematic Review
(*6)参照元・Alexandra S Potter 1 , Paul A Newhouse | Acute nicotine improves cognitive deficits in young adults with attention-deficit/hyperactivity disorder | PMID:18022679 DOI:10.1016/j.pbb.2007.09.014
(*7)参照元・成人発達障害者におけるコーピング、自尊感情、精神的健康との関連 | 跡見学園女子大学心理学部・医療法人社団大坪会・小石川東京病院・宮岡佳子氏
(*8)参照元・公益財団法人日本遊技機工業組合社会安全研究財団パチンコ・パチスロ遊技障害研究成果最終報告書(2021)
(*9)参照元・Adverse Childhood Experiences (ACEs) | Centers for Disease Control and Prevention
(*10)参照元・Wendy S Slutske 1 , Gu Zhu, Madeline H Meier, Nicholas G Martin | Genetic and environmental influences on disordered gambling in men and women | PMID:20530012 PMCID:PMC3600804 DOI:10.1001/archgenpsychiatry.2010.51
(*11)参照元・Christal N. Davis,1 Wendy S. Slutske,1 Nicholas G. Martin,2 Arpana Agrawal,3 and Michael T. Lynskey4 | Genetic and environmental influences on gambling disorder liability: a replication and combined analysis of two twin studies | PMID:30160223 PMCID:PMC6395556 DOI:10.1017/S0033291718002325
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