田中氏の陳情の責任問題



公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(以下同会)田中氏の陳情により、2016年3月1日に、高井宗志衆議院議員より衆議院に「ぱちんこ遊技機の射幸性管理に係る規制の在り方とのめりこみ・ギャンブル依存症問題の関係に関する質問主意書」が提出された。

この質問主意書には、元経産省官僚であり、日本の制度アナリストである、宇佐美典也氏が作成を手助けしている。(*1)


他方でパチンコ業界には、パチンコメーカー又はホールが遊技くぎを改変し遊技機の射幸性を向上させる不正改造が蔓延していることが平成二十七年六月から遊技産業健全化推進機構によって実施された遊技機性能調査によって明らかになっている。  このようなパチンコ業界に蔓延する不正改造がパチンコ産業のヘビーユーザー化を加速し、いわゆる「のめりこみ・ギャンブル依存症」の罹患者及びその家族の家庭環境・経済環境に深刻な影響を与えていることが懸念される。そこで「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下「風適法」という)における射幸性の管理の在り方について以下の諸点に関して質問する。(*2)

注釈:ホール=パチンコ店


この質問主意書で重要な点は、射幸性とギャンブル依存症の関連性である。質問主意書を要約すると、「遊技機の射幸性を向上させる不正改造がギャンブル依存症に深刻な影響を与えている懸念がある」である。

しかし、ギャンブリング障害(ギャンブル依存症)研究者である、公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授篠原菊紀氏(以下、篠原教授)は、「アミューズメントジャパン」の記事上で、2017年12月8日時点(質問主意書は2016年3月1日)で「エビデンスベースでは、現時点では分からない」と明言している。

つまり、田中氏は、射幸性とギャンブル依存症の関連性のエビデンスが無い陳情をしたという事になる。


──そもそも出玉率(射幸性)と遊技障害者の人数に因果関係はあるんでしょうか?
篠原教授 エビデンスベースで話すなら、「現時点では分からない」というのが正確な答えになります。今回初めて、日本の「直近一年」の推計値が分かったわけです。依存対策としての効果を測るなら、規制後にこの数がどう変わるか、規制と依存の人数の変化に因果関係があるのかを調べなくてはなりません。 (*3)



ギャンブル依存症の関連性

この質問主意書の直前より、一連の違法改造問題で、約290万台が撤去された。

これにより、不正改造をして射幸性を向上させた遊技機が撤去されたが、射幸性を低下させたにも関わらず、不正改造機が撤去された後の2020年の調査では、コロナ下の影響も留意しなければいけないが、直近1年のギャンブル依存症疑い率は増加している。


data

つまり、ギャンブル依存症は減っておらず、ギャンブル依存症問題と射幸性が関連していない事を実証しているのである。また、篠原教授は、射幸性は実験室条件での継続回数の増加をエビデンスにしており実証的では無いと指摘している。



篠原教授らの最新のパネル調査(縦断的調査)、「パチンコの出玉性能とパチンコ・パチスロ遊技障害の因果関係ーパネル調査による研究ー 」IRゲーミング学研究 (18)2-12,2022年3月(堀内由樹子,秋山久美子,坂元章,篠原菊紀,河本泰信,小口久雄,岡林克彦)では、射幸性とギャンブル依存症リスクとの因果関係は無かった事が判明している。





ギャンブル依存症のリスク変動

射幸性によるギャンブル依存症のリスクを、ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査報告書(*4)とギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究総合研究報告書(*5)の調査から検証する。

調査からは、当たりまでの考察過程が単純で払い戻し率が低く抑えられており、勝った時の金額が高く、射幸性の高い宝くじ等は依存症リスクが低く、当たりまでの考察過程が多様で、遊技者の技量により遊技者間に差が出やすく、勝った時の金額が抑えられており、払い戻し率が高く、射幸性が抑えられている、パチンコやパチスロの依存症リスクが高くなる事を示唆していた。

これは、射幸性が依存症リスクに関連しているのでは無く、払い戻し率の高低や、そのゲーム構造によりリスクが変動すると考察できる。

言い換えるならば、ギャンブルの種類によって依存症リスクが変動しており、研究調査等で行われたギャンブルの調査結果が、全てのギャンブルに当てはまらない事を示唆している。



陳情の目的

ここで田中氏の目的を明確にしたい。田中氏は、第190回国会内閣委員会の高井氏の質問や、河野太郎国家公安委員長(当時)の答弁を称賛するツイートをしている。



河野氏の下記答弁(抜き打ち検査などで不正改造により射幸性を高めたパチンコ機を撤去する)への賛同から、田中氏のエビデンスの無い陳情の目的は「ギャンブル依存症の懸念があるから射幸性の高いパチンコ機の撤去を早急に実現して下さい」である。

逆に、ギャンブル依存症の懸念をせずに陳情したのであれば、射幸性の高いパチンコ機の撤去以外に目的が無くなるので、それでは田中氏の運営する会の目的に全く合致しない。

また、田中氏は「速やかな撤去、ぬき打ち検査、検定取り消し、行政処分」を明言した河野氏の答弁が、陳情の目的に合致する完璧な答弁だったから嬉々としたツイートを行ったと感じた。


○河野国務大臣 違法な機械が大量に出回っていたわけでございますから、かなりの量があるというふうに承知をしておりますので、一遍にというわけにはいきませんが、これは最大限速やかに撤去するというのは当然のことだと思いますので、団体にもきちんとそれはやらせるように指導してまいりたいと思っておりますし、今後は、まず、機構にきちんと抜き打ちでチェックをしていただいて、違反があれば、先ほど申し上げましたように、メーカーに対しては型式検定の取り消し、ホールに対しては営業停止を含む行政処分を科すという警察の意思を明確に出していきたいというふうに思っております。 (*6)

更に、田中氏の陳情にエビデンスが無いにも関わらず、「ギャンブル依存症の懸念があるから射幸性の高いパチンコ機撤去を早急に実現して下さい」であったと裏付けるような田中氏の記事もある。


ぎゃ~!嬉しい~!!!だってですよ、この問題取り上げられてからもう、2年近くの時間がたってるのに、全然機械の入れ替えなんて進んでないんですから。(*7)

繰り返すが、射幸性とギャンブル依存症の関連性のエビデンスは無い。これはエビデンスの有無を確認せずに陳情したという事になる。



田中氏の陳情の認識



費用の明確な認識

また、田中氏は、台数と価格から1兆円という費用を算出して、明確にその費用を認識している。これは、パチンコ業界に高額な費用が発生する事を事前に想定していたのだろうか。それを喜んでいるようにすら感じる。





第三者に被害がある事を認識

下記ツイートでのやりとりでは、「河野氏の答弁で別の被害者を生み出した側面がある」というリプライに対して、田中氏は「その現実も踏まえる」「メーカーにも負担」とリプライしている。つまり、自身のエビデンスの無い陳情で、第三者であるパチンコ業界に被害があった事を認識しているという事になる。




法的な問題点

私は法曹関係者ではないので、その点を留意して下さい。

今回検証した、田中氏のエビデンスの無い陳情によって、第190回国会内閣委員会の高井氏の質問により、河野氏の「速やかな撤去」の明言を引き出した事は事実である。


○高井委員 大臣にお聞きしたいと思いますが、パチンコメーカーの業界団体である日工組というところがありますが、ここは、現在問題のある遊技機の自主回収を段階的に進めていくと。先ほど大臣は、早急にというか、かなり力強くおっしゃっていただいたんですが、段階的に。私、ちょっと雑誌とかをいろいろ読んだら、何か、何年かかけてというような表現をしている雑誌もありました。こういった方針だと。
 しかし、不正に改造された、射幸性が高くなった遊技機が市場に大量に出回っているということがこの調査によって明らかになったわけでありますから、警察としては、業界のこうした取り組み、段階的にというような対応を黙認するということであれば、これはパチンコ依存症問題を放置、拡大することにつながるとも考えるんですけれども、大臣の見解はいかがでしょうか。(*6)

○河野国務大臣 違法な機械が大量に出回っていたわけでございますから、かなりの量があるというふうに承知をしておりますので、一遍にというわけにはいきませんが、これは最大限速やかに撤去するというのは当然のことだと思います(*6)



甚大な費用

約290万台規模のパチンコ機撤去であれば、パチンコ機1台の価格が約40万円前後とすると機械代だけで1兆円強の規模となり、入れ替え費用等を含めるとそれ以上の費用が発生している。段階的な入れ替えは、高額な入れ替え費用や倒産等のホールの負担を考慮していたと考えられる。

しかし、田中氏のエビデンスの無い陳情によって河野氏が「速やかな撤去」を明言し、ホール負担を考慮して段階的な入れ替え予定だったものが、ホール負担を考慮せずにパチンコ機の「速やかな撤去」がされた、というのが真実ではないだろうか。

急激で甚大な費用の発生はホール経営を圧迫した要因の一つであり、田中氏のエビデンスの無い陳情は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第百十七条の「重大な過失」と事実認定される可能性がある。

また、田中氏の嬉々としたツイートや明確に費用を認識しているツイート等は、エビデンスの無い陳情が影響を及ぼし、撤去を加速させる事でホール負担が増えるという事情を認識していた事が窺え、「悪意」と事実認定される可能性がある。


一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
第百十七条
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。(*8)

更に付け加えれば、田中氏のエビデンスの無い陳情は、民法第六百四十四条の善管注意義務に違反している可能性がある。事実認定されれば、同会に損害が生じた場合には役員に対して、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(第百十一条)により損害賠償責任が発生する。


民法
第六百四十四条
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。(*9)

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
第百十一条
 理事、監事又は会計監査人(以下この款及び第三百一条第二項第十一号において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、一般社団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(*8)

その当時に営業していた約1万軒のパチンコ店が個別に訴訟を提起して、田中氏のエビデンスのない陳情が、悪意、重大な過失、善管注意義務違反と事実認定されれば、田中氏や運営する同会には損害賠償責任が発生する。



本末転倒

最後になるが、その1兆円強の費用を最終的に負担したのは、全国のパチンコユーザーだという事実を忘れないで頂きたい。

パチンコやパチスロは遊技であるが故、技術介入力の高低により収支が増減する。技術介入力の高い遊技者は負け額を抑えられ、常勝している者も存在するが、ギャンブル依存症当事者に圧倒的に多い、技術介入力の低い遊技者は負け額を抑えられない。これは事実である。

即ち、撤去によりギャンブル依存症が減少していないという事実は、重症化の要因の一つである金銭問題を悪化させた懸念すらある。なぜなら、1兆円強の費用の大部分を負担したのは、技術介入力の低いギャンブル依存症当事者や一般ユーザーだからである。依存リスクを増大させたのは、田中氏自身であり本末転倒である。



*2022年9月29日加筆(全文を読みやすく、加筆、修正しました。)
*2022年12月19日加筆(段落「ギャンブル依存症のリスク変動」を加筆致しました。)


合わせて読みたいエントリー



(*1)参照元・御礼!ギャンブル等依存症対策基本法成立です - in a family way - 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子氏
(*1)参照元・そうだ調査へ行こう!です - in a family way - 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子氏
(*1)参照元・ギャン妻こそ信じてました・・・です - in a family way - 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子氏
(*1)参照元・宇佐美典也さんです - in a family way - 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子氏
(*1)参照元・人のご縁です - in a family way - 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子氏
(*2)引用元・ぱちんこ遊技機の射幸性管理に係る規制の在り方とのめりこみ・ギャンブル依存症問題の関係に関する質問主意書 - 衆議院
(*3)引用元・篠原菊紀教授に聞く依存問題の真実 - Amusement Japn
(*4)参照元・令和2年度依存症に関する調査研究事業「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題実態調査」報告書 | 研究代表者:独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
(*5)参照元・厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業ギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究令和元年ー令和3年総合研究報告書 | 研究代表者:松下幸生氏(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
(*6)引用元・第190回国会内閣委員会第14号(平成28(2016)年4月27日(水曜日))会議録本文-衆議院
(*7)引用元・感激!高井崇志先生&河野太郎大臣です - 田中紀子 - アゴラ
(*8)引用元・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 - 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(*9)引用元・民法 - 電子政府の総合窓口 - e-Gov イーガブ